窃盗罪について-刑罰の内容と実刑の可能性
窃盗罪は、犯罪の中でも身近な犯罪といえます。
中でも「万引き」は、思春期の子どもが犯すような軽い犯罪と捉えられがちですが、実際は窃盗罪となる重い犯罪です。
成人で万引きを繰り返す方も多く、社会問題となりつつあります。
犯行中に発見されれば代金を払うか商品を返し注意を受けて終わる可能性もありますが、万引きも窃盗罪なので、処罰されることとなれば懲役刑の可能性もある犯罪なのです。
もし窃盗罪で逮捕されたら、一刻も早い示談の成立のために動くべきです。
今回は、窃盗罪で逮捕された方やそのご家族向けに、窃盗罪の概要とその刑罰、懲役刑となる可能性、示談の内容をお伝えします。
1 窃盗罪について
⑴ 窃盗罪の構成要件
窃盗罪という言葉はよく耳にするものの、具体的にどのような行為が罰せられるのかを詳しくご存知の方は少ないでしょう。
物を盗む犯罪と理解している方もいらっしゃるかと思いますが、実は窃盗罪には色々な行為が当てはまります。
窃盗罪は、刑法235条には以下のように規定されています。
“他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪”
この条文からは、他人の所有物を、所有者を排除して自分の支配下に置く(窃取)ことが犯罪成立の条件と読めますが、実際には先例によりさらに「対象となるものが他人の物理的支配(占有)下にあること」「あたかも自分の所有物であるかのように利用したり処分したりする意図のあること(不法領得の意思)」が別途成立条件に加えられています。
その結果、所有者はいるけれど打ち捨てられた自転車を拝借する行為は占有離脱物横領罪となり、嫌がらせのために捨てるつもりで人の財産を持ち出せば毀棄罪になります。
所有者等の他人の犠牲の元に利益を得るという行為の悪質性が、窃盗罪が比較的重く罰せられる理由とされているのです。
上記全ての条件を満たす行為は、窃盗罪として罰せられるのです。
なお、「財物」には有形の物だけでなく、先例により電気も含みます。
⑵ 万引きも窃盗罪
空き巣や車上荒らし、店舗荒らし、お店のコンセントで勝手に充電するなど、さまざまな行為が窃盗罪にあてはまりますが、一番の典型例としてあげられるのが「万引き」です。
例えば、スーパーでお菓子を盗んで支払いをせずに店を出て食べたというケースを想定してみましょう。
スーパーのお菓子はスーパーのオーナーの所有物であり、かつオーナーや店長が管理しているため「他人の財物」で「他人の占有下にある」といえます。
お菓子をポケットに入れた時点で窃取行為を開始したことになり、店を出た時点で(警備員などに追いかけられて捕まる可能性が客観的に格段に減りますから)占有移転が完了し、窃盗罪となります。
仮に店を出る前に捕まれば、窃盗未遂罪となります。
そして、店を出て食べたということは、自分の物としてお菓子を扱い、スーパーのオーナーの所有権を排除したことになるため「③不法領得の意思がある」となります。
したがって、窃盗罪が成立します。
仮に食べる前に捕まったとしても、問題になるのは実際に食べたかどうかでなく(盗んだ物を食べることそのものは犯罪ではありません)持ち出す時点で食べる等するつもりがあったかですので、結果は変わりません。
このように、万引きには窃盗罪という罪名がつきます。
逮捕されたら空き巣や車上荒らしといった犯罪と同様の罪名で裁かれることになります。
2 窃盗罪の刑罰
次に、窃盗罪の刑罰と実刑の可能性についてお伝えします。
⑴ 窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と規定されています。
(なお、2025年6月1日からは懲役と禁固が一本化され拘禁刑となります。)
もっとも、衝動的に万引きをしてしまい初犯だったケースなどの場合は、そもそも逮捕されず注意で済むか、微罪処分として検察への送致すらないことがあります。
しかしそれは被害者や捜査機関の都合によりたまたまお目こぼししてもらえたというだけのことであり、初犯だから処罰されないなどと考えることは大きな間違いです。
初犯であっても、逮捕→勾留まで続くと、逮捕から最大で23日間、留置施設に勾留されることになります。
また、手口や被害額、犯行目的、余罪の存在などの事情から悪質性が高いと判断されると、微罪処分とならず起訴まで至ることが多くなるでしょう。
このように、窃盗罪で逮捕された場合、重い結果が待ち受けているため、早期の弁護活動が大切です。
⑵ 懲役になる可能性
初犯の場合や示談が成立している場合は、不起訴となる可能性も十分にあります。
不起訴となれば、裁判はありませんので懲役もありません。
しかし、一旦起訴されてしまうと、99%は有罪になるといわれています。
有罪となった場合でも、執行猶予や罰金刑で済む可能性もありますが、場合によっては実刑もあり得ます。
量刑の判断は、被害金額の大きさ、示談の有無等の犯行後の事情、前科の有無、犯行の悪質性などから総合的に判断されます。
被害金額が数千円程度であれば、量刑は軽くなり罰金の可能性もあります。
このような場合には正式裁判でなく略式手続で処分を受けることが多いです。
しかし、示談が取り付けられない場合や前科がある場合、転売の目的があった場合など、計画性があり悪質と判断された場合にはより重い懲役刑を科すために正式裁判が選択される可能性が高まります。
ちなみに、起訴され有罪となった場合には、罰金刑や執行猶予であっても前科がつきます。
正式裁判でなく、略式手続が選択された場合には、罰金刑のみが科されることになっています。
3 窃盗罪の刑罰を軽減するためにできること
最後に、窃盗罪の刑罰を軽減するためにできることをご説明します。
⑴ 被害弁償等の示談交渉
窃盗罪の罪を少しでも軽くしたい場合は、示談が最も有効です。
示談で、被害を回復したり、被害者が寛大な処分を求めてくれたりすれば、起訴・不起訴の判断や量刑に影響します。
示談では謝罪も必要ですが、特に被害弁償を行うことが重要と考えられています。
被害者の損なわれた利益を回復し、窃盗により生じた不当な影響状態を元に戻すことになるためです。
窃盗罪において被害賠償とは、当該盗んだ物品の新品の価格を弁償することを指します。
盗んだ物を返せばよいと考える方も多いですが、万引きなどの場合、スーパーの店長は人が盗んだ商品をもう一度売ることは難しいと考えるため、新品同様の価格を被害弁償として支払うのが一般的です。
これ以外の窃盗行為の場合でも、被害弁償をしっかりと行い、謝罪の意思を示せば、示談に応じてくれる可能性は高くなります。
また、示談の際には、「厳しい処分は望まない」とする宥恕文言を入れることもできます。
これがあると、勾留請求や起訴・不起訴、量刑に影響し減軽される可能性は高くなります。
そして、正式裁判に至った場合の裁判官の最終的な判断には必ず被害者の処罰感情も考慮されます。
示談を成立させていれば、当事者同士での解決が済んでいるため、よい情状として考慮される可能性も高くなるのです。
⑵ 弁護士に依頼すれば示談はスムーズに
窃盗罪で逮捕されている状況の場合は、すぐに弁護士に依頼することをおすすめします。
なぜなら、逮捕後できる限り早い釈放を目指すことで、勾留請求なしや不起訴の可能性を高めることができるからです。
身柄拘束中は自分で示談交渉を行うことは難しいため、弁護士に依頼する方が早く示談をまとめることができます。
これは在宅事件の場合でも同様です。
在宅事件の場合は、いつまで捜査が続くか不安なことも多いでしょう。
先に示談を成立させておくことで、起訴の可能性を少なくすることができます。
示談はご自身でも可能なケースもありますが、法的書類としてまとめる必要があるため、ある程度の形式を守る必要があります。
法的に有効な書面を整え、犯罪により生じた紛争状態を最終的に解決することを確定させなければ、思いがけず二重に賠償を求められる事態にもなりかねません。
また、被疑者と直接顔を合わせたくない、電話番号すら知られたくないという被害者の方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合でも、秘密を守る弁護士ならばと応じてくれる可能性は高いです。
よって、弁護士と一緒に対策を講じることが必要なのです。
刑事事件は時間が勝負といわれています。
法律の専門家である弁護士に示談交渉を任せれば、ご自身で進めるよりも事件解決までの道のりは短くなります。
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